精神科の映画といえば…『カッコーの巣の上で』
第3回目にして、王道の映画を。
『カッコーの巣の上で』(原題:One Flew Over the Cuckoo’s Nest)
公開年:1975年
ケン・キージーにより書かれた同名小説が原作。
ただ、この当時の精神科病院は、積極的に患者を治療して短期間で社会に復帰するのを目指すのではなく、長期的に、ときには生涯に渡って患者を入院させることがざらにありました。また、マクマーフィが入院した病棟では、看護婦長による「絶対王政」が築かれていました。
規則だらけの入院生活に不満が募り、あえて規則に逆らって、婦長を本気で怒らせようと、様々な逸脱行動を重ねていきます。そして遂には病院からの脱走を計画しますが、その行方は…。
物語の中で描かれるマクマーフィの、手段は悪くても純粋に自由を求める姿が観ていてスカッとします。患者たちも個性豊かで、病棟規則には従うことを余儀なくされていましたが、マクマーフィの入院によってその心が次第に動き始める描写がリアルです。見どころ紹介していきます。
①描かれる「古き良き精神科病棟」
今はこんな病棟はないと信じたいですが、いくら慢性期病棟とはいえ、いろんな面がゆるすぎ。看守も一緒にお酒を豪快に飲んで乱痴気騒ぎする場面もありますが…これはさすがに脚色だよね?笑
治療面でも、今では考えられない点が。電気けいれん療法やロボトミーの「懲罰的適応」です。治療的な目的より、規則を守らせるため、暴れさせないためにやっているのはちょっと待てぃ!各種治療については後述。
②マクマーフィの「いいやつだけどクズ」感
マクマーフィは明らかな精神疾患ではないものの、異常なまでにルールを破りたがります。『シャイニング』のときのジャック・ニコルソンほどではないですが、まあまあクレイジー。見方によれば、「反社会性パーソナリティ障害」とみることができたり、できなかったり。
誰とでも分け隔てなく仲良くするタイプで、聾唖の との友情は映画のキーポイントになっていきます。誰とでも分け隔てなく仲良くできる人って羨ましいですよね。
③看護婦長の優しさゆえの「絶対王政」
看護婦長のラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)は、支配のために患者らに厳しい規則を課せているのではなく、彼女の看護観としての規則なんです。患者さんたちに良くなってもらうために、穏やかな日常を提供するためには、この方法が最善だと信じています。マクマーフィからしたら思いっきり敵キャラなので、嫌な人に見えるかもしれませんが、そこも汲み取って観ると面白いですよ。
ネタバレに注意しながら書きましたが、匂わせが半端ないですね。けっこう古い映画なので、「行間」みたいなのが曖昧な点もあるので、この記事と併せて観られてみてはいかがでしょうか。
そういえば、サイドストーリーとしてはビリーの心情に注目!
ここまで読んでくれたあなたに…ざっくり精神科メモ
電気けいれん療法(ECT)
精神科で行われていたショック療法のひとつ。現在では安全性の高い「修正型電気けいれん療法(mECT)」として世界的に広く行われています。何を修正する必要があったのか。頭に電流を流すと、脳波が乱れに乱れて全身がけいれんします。これにより患者さんが怪我を負うリスクがとんでもなく高かったんです。そもそも、頭に電気を通されるだけでとんでもなく痛い。今では全身麻酔をかけて、筋弛緩剤を投与して、痛くない、全身がけいれんしない治療を実現しているので、名前はおどろおどろしいですが安心してください。
劇中でペナルティ的に行われているんですが、この使い方はもはや拷問。適応となる疾患も限られているので、なんでもかんでも通電しとけば大人しくなるわけではないです。